人生会議のやり方・進め方|6ステップと話し合うことを解説

「人生会議(じんせいかいぎ)」とは、もしものときに自分が望む医療やケアについて、本人を中心に家族や医療・ケアチームが繰り返し話し合い、その意思を共有しておく取り組みです。厚生労働省が「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の愛称として普及を進めています。ただ、いざ始めようとすると「何から手をつければよいのか」「家族とどう話せばよいのか」と迷う方は少なくありません。
この記事では、人生会議の具体的なやり方・進め方を、厚生労働省の枠組みに沿って実践的に解説します。準備から記録・共有、定期的な見直しまでの流れ、話し合うべき5つのテーマ、重くなりすぎないためのコツ、エンディングノートやもしバナゲームといった役立つツール、そして医療者との関わり方まで、順を追って説明します。これから人生会議を始めたい本人やご家族が、今日から一歩を踏み出せる内容を目指しました。
人生会議そのものの意味や背景をまず確認したい方は、人生会議とは何かをわかりやすく解説した記事もあわせてご覧ください。
人生会議のやり方・進め方の全体像
人生会議は、一度きりの大きなイベントではありません。厚生労働省は、将来の医療・ケアについて、本人を主体に家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合うプロセスであると説明しています。つまり、完璧な結論を一度で出す必要はなく、体調や気持ちの変化に合わせて何度も話し合い、内容を更新していくことが前提です。
進め方の全体像は、次の6つのステップに整理できます。まずこの流れを頭に入れておくと、各ステップで何をすればよいかが見えやすくなります。
- 準備する:自分が大切にしていることや、これからどう過ごしたいかを考え、書き出す。
- 誰と話すかを決める:家族や信頼できる人、医療・ケアの担当者など、話し合う相手を選ぶ。代理意思決定者を決めておく。
- 何を話すかを決める:もしものときの医療、延命、療養場所、大切にしたいことなど、テーマを整理する。
- 話し合う:実際に相手と向き合い、希望や不安を伝え合う。一度で終えず、複数回に分けてよい。
- 記録して共有する:話し合った内容をエンディングノートなどに残し、関係者と共有する。
- 定期的に見直す:体調や生活、気持ちが変わったら、改めて話し合って内容を更新する。
- 自分にとって、生きるうえで大切にしたいことは何か。
- どんな時間や状態を「自分らしい」と感じるか。
- これだけは避けたい、という状態はあるか。
- もしものとき、誰にそばにいてほしいか。どこで過ごしたいか。
- これまでの人生で印象に残っている経験や、影響を受けた出来事は何か。
- 自分の価値観や希望を理解してくれている人か。
- いざというとき、自分の気持ちをくみ取って医療者と話せる人か。
- 連絡が取りやすく、必要なときに対応してもらえる人か。
- 結論を急がず、まずは気持ちや考えを共有することを目的にする。
- 相手の意見を否定せず、最後まで聞く。
- 準備のステップで書き出したメモを手元に置き、話のきっかけにする。
- 話したくないテーマは無理に踏み込まず、次の機会に回す。
- 自分が大切にしたいことや、望む過ごし方。
- もしものときに望む医療・ケアの方向性。
- 療養したい場所についての希望。
- 代理意思決定者の氏名と連絡先。
- 話し合った日付(更新の目安にするため)。
- 体調や健康状態が変わったとき。
- 大きな病気の診断を受けたり、入院・退院をしたりしたとき。
- 結婚、引っ越し、家族構成の変化など、生活が大きく変わったとき。
- 誕生日や年末年始など、節目の時期。
- 主治医・かかりつけ医:病状や治療の見通し、医療の選択肢について説明を受けられる。
- 看護師:日々のケアや療養生活の不安について相談しやすい。
- ケアマネジャー(介護支援専門員):介護サービスや療養場所の調整について相談できる。
- 医療ソーシャルワーカー・相談員:制度の利用や生活全般の相談に応じてくれる。
以下では、それぞれのステップを詳しく見ていきます。
ステップ1:準備する(自分の価値観を整理する)

人生会議の出発点は、相手と話すことではなく、自分自身と向き合うことです。いきなり家族に「もしものときの話をしたい」と切り出すのではなく、まずは自分が何を大切にしているのか、これからどう生きたいのかを静かに考えてみましょう。
具体的には、次のような問いを自分に投げかけ、思いついたことを紙やノートに書き出していきます。
この段階では、はっきりした結論を出す必要はありません。「まだよくわからない」という項目があってもかまいません。大切なのは、自分の気持ちの輪郭をつかんでおくことです。書き出した内容は、後のステップで家族や医療者と話し合うときの土台になります。
考えを整理するうえでは、エンディングノートが役立ちます。項目に沿って書き進めるだけで価値観や希望が見えてくるため、準備のハードルが下がります。書き方の手順はエンディングノートの書き方と項目を解説した記事で詳しく紹介しています。
ステップ2:誰と話すかを決める(代理意思決定者を選ぶ)
次に、誰と人生会議を行うかを決めます。中心になるのは、家族や、自分が信頼できる近しい人です。配偶者や子ども、きょうだいに限らず、長年の友人やパートナーなど、自分のことをよく理解してくれる人であれば誰でもかまいません。
代理意思決定者を決めておく
人生会議でとくに重要なのが、代理意思決定者(医療代理人)を決めておくことです。代理意思決定者とは、もしも自分の意思を自分で伝えられなくなったときに、自分が受ける医療やケアについて医療者と相談してほしい人のことです。
厚生労働省も、いざというときに自分の代わりに考えてくれる人を選び、その人に「あなたにお願いしたい」とあらかじめ伝えておくことを勧めています。代理意思決定者を選ぶときは、次の点を意識するとよいでしょう。
代理意思決定者を決めたら、本人にその役割を伝え、これまで書き出してきた自分の希望や価値観を共有しておきます。役割を伝えていないと、いざというときに本人が戸惑ってしまうため、必ず本人の了解を得ておきましょう。
話を切り出しにくいときは
家族に「もしものとき」の話を切り出すのは勇気がいるものです。相手が話題を避けたがる場合もあります。切り出し方に迷うときは、人生会議を家族にどう切り出すかを解説した記事で、自然なきっかけのつくり方や言葉の選び方を紹介しています。テレビ番組やニュース、知人の体験など、身近な話題をきっかけにすると話し始めやすくなります。
ステップ3:何を話すかを決める(話し合う5つのテーマ)
人生会議で話し合う内容は多岐にわたりますが、整理すると次の5つのテーマに分けられます。すべてを一度に話す必要はなく、話しやすいテーマから少しずつ進めていけば十分です。
1. もしものときの医療・ケア
病気やけがで自分の意思を伝えられなくなったとき、どのような医療やケアを受けたいか・受けたくないかを考えます。たとえば、治る見込みが少ない状態になったとき、どこまでの治療を望むか、痛みや苦しみをやわらげるケアをどう受けたいか、といった点です。専門的な判断が必要な部分も多いため、わからないことは無理に決めず、後で医療者に相談すればよいと考えましょう。
2. 延命に関する希望
回復が難しい状態になったときに、人工呼吸器や心肺蘇生、人工的な水分・栄養の補給などの延命につながる処置をどこまで望むか、という点です。これは非常にデリケートで、答えを出しにくいテーマです。今すぐ結論を出せなくても問題ありません。「どんなことが気になるか」「どんな状態は避けたいか」といった気持ちを共有するだけでも、いざというときに代理意思決定者や医療者が判断する大きな助けになります。延命処置の医学的な内容については、判断する場面で必ず医療者から詳しい説明を受けてください。
3. 療養する場所
病気などで療養が必要になったとき、どこで過ごしたいかを考えます。住み慣れた自宅、病院、緩和ケア病棟(ホスピス)、介護施設など、選択肢はさまざまです。「できる限り自宅で過ごしたい」「家族に負担をかけたくないので施設を考えたい」など、希望は人それぞれです。家族の状況や利用できる在宅医療・介護サービスによって実現できる範囲は変わるため、希望を伝え合ったうえで、現実的な選択肢を一緒に確認していきます。
4. 大切にしたいこと・過ごし方
医療やケアの内容だけでなく、どう過ごしたいかも大切なテーマです。誰にそばにいてほしいか、最期まで続けたいことは何か、心の支えになっているもの(信仰や趣味、大切な人との時間など)は何か、といった点です。こうした価値観は、具体的な医療の選択を考えるうえでの判断のよりどころになります。
5. 代理意思決定者への伝達
ステップ2で決めた代理意思決定者に、ここまで話し合った内容をしっかり共有します。代理意思決定者が本人の希望を理解していれば、いざというときに本人の意思に沿った選択をしやすくなります。これが人生会議の核心ともいえる部分です。
ステップ4:実際に話し合う
準備が整ったら、実際に話し合いの場をもちます。とはいえ、かしこまった会議を開く必要はありません。食事のあとやお茶を飲みながらなど、落ち着いて話せる雰囲気の中で、自然に話を始めるのがおすすめです。
話し合いを進めるときは、次のような点を意識すると、お互いに気持ちを伝えやすくなります。
一度の話し合いですべてを決めようとすると、本人も家族も疲れてしまいます。後述するように、複数回に分けて少しずつ進めるのがコツです。
ステップ5:記録して共有する
話し合った内容は、口約束のままにせず、かたちに残して共有することが大切です。記録しておくことで、本人の希望が時間とともにあいまいになるのを防ぎ、いざというときに代理意思決定者や医療者が本人の意思を確認できます。
記録する内容の例としては、次のようなものがあります。
記録には、エンディングノートや自治体・医療機関が用意している人生会議用の様式(シート)を活用すると便利です。書き終えたら、その内容を家族や代理意思決定者と共有し、ノートやシートの保管場所も伝えておきましょう。せっかく記録しても、その存在を誰も知らなければ役に立ちません。
なお、人生会議とエンディングノート、ACPはそれぞれ役割が異なります。違いを整理したい方は、ACP・人生会議・エンディングノートの違いを解説した記事も参考にしてください。
ステップ6:定期的に見直す
人生会議は、一度行えば終わりではありません。人の気持ちや価値観は、時間の経過や経験によって変わっていくものです。健康なときに考えていた希望が、病気を経験したあとには変わることもあります。だからこそ、厚生労働省も「繰り返し話し合う」ことを重視しています。
次のようなタイミングは、人生会議の内容を見直すよい機会です。
見直しの結果、希望が変わった場合は、記録を更新し、代理意思決定者や医療者にも改めて共有します。気持ちが変わること自体は自然なことであり、何度更新してもかまいません。
人生会議を進めるときのコツ
人生会議は「死」や「もしものとき」を扱うため、どうしても気が重くなりがちです。無理なく続けるために、次のコツを意識してみてください。
重くしすぎない
深刻な雰囲気で始めると、本人も家族も身構えてしまいます。「もしものときのために、ちょっと話しておきたいことがある」といった軽い切り出し方で十分です。お茶を飲みながら、世間話の延長で触れるくらいの気軽さを心がけましょう。明るく前向きに、「これからをどう過ごしたいか」を考える時間としてとらえると、話しやすくなります。
複数回に分ける
一度の話し合いですべてを決めようとしないことが大切です。テーマを絞って、一回につき一つか二つの話題に触れるくらいがちょうどよいでしょう。続きはまた今度、と区切ることで、お互いの負担が軽くなり、気持ちの整理もしやすくなります。人生会議は「プロセス」であり、回数を重ねること自体に意味があります。
わからないことは保留してよい
すべての項目に今すぐ答えを出す必要はありません。「まだ決められない」「もう少し考えたい」という項目は、保留にしておいてかまいません。決まっていることと決まっていないことを家族で共有しておくだけでも、十分に意味があります。
人生会議に役立つツール

人生会議を始めるとき、何もないところから話すのは難しいものです。話し合いのきっかけや、考えを整理する助けになるツールを活用しましょう。
エンディングノート
エンディングノートは、自分の情報や希望、もしものときの意思などを書き留めておくノートです。項目に沿って書き進めるだけで、自分の価値観や希望が整理されていくため、人生会議の準備や記録に役立ちます。書店や文具店で市販されているもののほか、自治体が無料で配布しているものや、ダウンロードできるものもあります。書き方の具体的な手順はエンディングノートの書き方の記事で確認できます。
もしバナゲーム
「もしバナゲーム」は、人生の最終段階で大切にしたいことを、ゲームを通じて考えられるカードゲームです。一般社団法人iACP(千葉県の亀田総合病院の医師らが立ち上げた団体)が開発したもので、アメリカのカードゲーム「Go Wish Game」の日本語版として2013年につくられました。
1箱に36枚のカードが入っており、そのうち35枚には「重病のときや死の間際に人が大切にする言葉」が書かれています。残りの1枚は「ワイルドカード」で、35枚にない自分独自の希望を書き込めます。カードを選びながら自分にとって何が大切かを考え、ほかの人と話し合うことで、ふだん言葉にしにくい価値観を自然に共有できます。家族や仲間と楽しみながら人生会議のきっかけをつくれるツールとして、医療・介護の現場でも活用されています。
厚生労働省の資料・ポータルサイト
厚生労働省は、人生会議を広めるためのポスターやリーフレット、動画などの普及啓発資料を公開しています。人生会議の考え方や進め方を学べるポータルサイトも用意されているため、信頼できる情報源として活用できます。詳しくは厚生労働省の「人生会議」してみませんかのページをご確認ください。
医療者との関わり方
人生会議は家族だけで進めることもできますが、医療・ケアの専門職に関わってもらうことで、より現実に即した話し合いができます。とくに、病気の治療を受けている方や、療養が必要な方は、医療者との連携が欠かせません。
相談できる相手
人生会議について相談できる専門職には、次のような人がいます。状況に応じて、身近な相手から声をかけてみましょう。
医療者に相談するときのポイント
医療者に相談するときは、ここまでに整理した自分の価値観や希望を伝えると、話がスムーズになります。延命処置や治療の内容など、専門的で判断が難しいテーマは、医療者から十分な情報と説明を受けたうえで、本人や家族が納得して決めることが大切です。厚生労働省のガイドラインでも、医療・ケアチームから適切な情報提供を受け、本人と十分に話し合って合意を形成していくプロセスが重視されています。疑問や不安があれば遠慮なく質問し、わからないまま決めないようにしましょう。
人生会議やACPに関するより詳しい情報は、ACPに関する記事一覧でもまとめています。あわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
人生会議は何歳から始めればよいですか?
年齢に決まりはありません。人生会議は、健康なうちから始めておくことが望ましいとされています。もしものことは年齢に関係なく起こり得るため、若い世代でも、自分の価値観を整理し家族と共有しておく意味は十分にあります。元気なうちのほうが落ち着いて話し合えるという利点もあります。
家族が話し合いを嫌がる場合はどうすればよいですか?
無理に進めず、相手の気持ちを尊重することが大切です。テレビ番組やニュース、知人の体験など身近な話題をきっかけにすると、自然に話し始めやすくなります。一度で深く話そうとせず、軽い話題から少しずつ触れていくとよいでしょう。切り出し方に迷うときは、家族への切り出し方を解説した記事も参考になります。
人生会議とエンディングノートは何が違いますか?
エンディングノートは、自分の希望や情報を「書き留めるツール」です。一方、人生会議は、もしものときの医療やケアについて家族や医療者と「繰り返し話し合うプロセス」を指します。エンディングノートは人生会議の準備や記録に役立つツールであり、両者は補い合う関係にあります。
話し合った内容に法的な効力はありますか?
人生会議で話し合い、エンディングノートなどに記録した内容そのものに、法的な拘束力があるわけではありません。ただし、本人の意思を示す重要な手がかりとなり、いざというときに代理意思決定者や医療者が本人の希望をくみ取って判断するための大きな助けになります。
代理意思決定者は家族でなければいけませんか?
家族に限りません。配偶者や子どもなどの家族のほか、信頼できる友人やパートナーなど、自分の価値観を理解してくれる人であれば誰でも選べます。大切なのは、いざというときに自分の気持ちをくみ取って医療者と相談してくれる人を選び、本人にその役割を伝えておくことです。
一度決めた希望は変更できますか?
何度でも変更できます。気持ちや価値観は時間とともに変わるものであり、健康状態や生活の変化に応じて見直すことが推奨されています。希望が変わったら記録を更新し、代理意思決定者や医療者に改めて共有しておきましょう。
まとめ
人生会議は、もしものときに自分らしい医療やケアを受けるための、家族や医療者との大切な話し合いです。やり方の基本は、(1)自分の価値観を整理して準備する、(2)誰と話すか・代理意思決定者を決める、(3)話し合うテーマを整理する、(4)実際に話し合う、(5)記録して共有する、(6)定期的に見直す、という流れです。
重くしすぎず、複数回に分けて、わからないことは保留にしながら進めるのがコツです。エンディングノートやもしバナゲームといったツール、そして医療者の力も借りながら、まずは自分の気持ちを整理する第一歩から始めてみてください。話し合いを重ねること自体が、自分と大切な人の安心につながります。
